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【SDGs】『施設とウェルビーイング』

#SDGs #福岡県立社会教育総合センター

SDGs3は、「GOOD HEALTH AND WELL-BEING(すべての人に健康と福祉を)」です。
最近、企業ではこのWELL-BEING(ウェルビーイング)とSDGs8(働きがいも経済成長も)の視点から、
仕事を通じて社員の幸せな状態を創出しようとするウェルビーイング経営に乗り出しているようです。
ウェルビーイングとは、身体的・精神的・社会的に“良好な状態”であることを示す概念です。
単一的で一時的な幸せではなく、複合的で持続的な幸福の意で用いられています。

このウェルビーイングこそ、これからの青少年教育施設が大事にすべき新たな概念であるような気がしています。
つまり、施設職員も利用者も“誰も”がウェルビーイングを当たり前のこととする施設です。

新型コロナウイルスによって、人々の行動様式や考え方が大きく変わりました。
まさに、SDGsが目指す「社会変革」を先取りするかようなダイナミズムです。
このコロナ禍にあって、国立夜須高原青少年自然の家は従前の「集団」と「非日常」を体験する施設から、
「個」と「日常」を体験する施設のあり方にも焦点を当て始めています。
 ※『夜須高原から見つめるESD・SDGs ~私たちの通信文~』p.39参照
https://yasu.niye.go.jp/wp-content/uploads/2021/03/YASUKOGEN-ESD%E3%83%BBSDGs-tsuushin.pdf

個と日常、そしてウェルビーイングはとても親和性があるのではないでしょうか。
前掲書の同ページには、SDGsへの行動を“考動”と捉え直しています。
SDGsが“考動”を伴う概念だとすれば、ウェルビーイングは“幸動”と言えそうです。
両者が同時並行的に希求されてもよいでしょうし、「考」の行き着く先が「幸」だとすれば、
ウェルビーイングはより上位に位置付けられるかもしれません。

「国立夜須高原青少年自然の家」の英訳は、National Yasukogen Youth Outdoor Learning Centerです。
全国にある国立の自然の家・交流の家も、同じように英語では「― Center」となっています。
対外的には「Center」であるのだけれども、敢えて「家」と表記されてあるところに温かな奥ゆかしさを感じます。
「センター」であれば、集団性や非日常性がイメージされる特別な空間に映ってしまうのは私だけでしょうか。

もちろん、日常生活から離れ、自然豊かな場所でリフレッシュを求めて過ごすところに自然の家の価値を見出す利用者もいます。
現実社会に戻って、生活や仕事での大きな活力になることは否定しません。
しかしながら、自然の家はホテルや旅館と違って教育施設ですからそこでの生活は“旅行”ではなく“研修”になります。
したがって、一時的な幸福が得られるだけでは終わらない継続的な教育の視点も必要になります。

そこで、Centerを「家」としている点を踏まえ、個々人の“家”とシームレスな関係性で捉えてみてはどうでしょうか。
すなわち、家から(自然の)家へという考え方です。換言すれば、家庭「生活」⇔施設「生活」という図式です。

学校団体が自然の家をCenterとして利用するならば、そこでは集団と非日常の教育的視点になります。
家として利用するならば、個と日常を振り返る生活の場になります。
あるいは、両者を両立させたホリスティックな教育的利用も考えられます。

国連の世界幸福度ランキング(2020)によると、日本は62位という結果でした。
とくに「寛容さ」と「主観満足度」への評価が低かったようです。
また、国立青少年教育振興機構の調査によると、日本の高校生はアメリカ、韓国、中国と比較して自己肯定感が低く、
とくに「私は価値ある人間だと思う」「私は今の自分に満足している」では、数値の開きが顕著であるという結果でした。
※『高校生の心と体の健康に関する意識調査報告書』(2018)
 http://www.niye.go.jp/kanri/upload/editor/126/File/report.pdf

この問題解消のためのアプローチは各論に譲りますが、ウェルビーイングがホリスティックな概念であることからすれば、
青少年教育施設としても従前のCenter観からの転換を図り、家としても新たに価値付けてみてはいかがでしょうか。
個のウェルビーイングが、集団的な関係性において他者をも思いやる生活の場としてのCenterに変革する予感がします。

今回の執筆者
福岡県立社会教育総合センター 研修・情報室 社会教育主事 上野 修司

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